卓越した技術力に支えられた、傑作エル・プリメロが原動力

創業時からマニュファクチュール化に成功し、販路を世界に拡大。1969年に完成した自動巻きクロノグラフ・ムーブの傑作エル・プリメロで飛躍した「ゼニス」。

この記事を監修した専門家

腕時計専門店「GMT」近藤

 

腕時計専門店「GMT」近藤さん

今回は、ゼニスの人気シリーズランキングから歴史、エル・プリメロの誕生秘話、アフターサービス情報まで、ゼニスの情報を徹底解説しています。

目次

【1】ゼニスのシリーズ一覧

【2】ゼニスのシリーズランキング・定番腕時計

2-1.1位:クロノマスター

2-2.2位:デファイ

2-3.3位:エリート

2-4.4位:パイロット

【3】ゼニスの歴史

【4】エル・プリメロについて

【5】ゼニスの6つの傑作品

【6】アフターサービス情報(メーカー保証期間・オーバーホール料金など)

 

1.ゼニスのシリーズ一覧

現在、全4シリーズから成り立つゼニス。エル・プリメロを搭載したクロノマスターをはじめ、要所を押さえたシンプルな構成が特徴。

※2016年にキャプテン、アカデミー、エル・プリメロの各シリーズを廃止し、今の4シリーズに統合。

 

 

クロノマスター

 

クロノマスター

毎秒10振動のエル・プリメロを搭載した、ゼニスの定番クロノグラフシリーズ。
種類・価格ともにバリエーションが豊か。ゼニスらしさが詰まった1本は「入門用」にも最適。

 

 

 

デファイ

 

デファイ

毎秒100振動のクロノグラフ専用輪列を備え、100分の1秒時を実現した「最新のエル・プリメロ」を搭載するシリーズ(2017年誕生)。
ゼニス渾身のメカニズムが、スケルトナイズしたダイヤルに姿を覗かせる。

 

 

 

エリート

 

エリート

上品なドレスウォッチシリーズ。他ブランドとの違いは薄さ。どれも9mm~11mm程度に厚さが抑えられている。
クラシックモデルは高精度な3針自社ムーブメント「エリート」を搭載し、クロノグラフはエル・プリメロCal.4069を搭載。

 

 

 

パイロット

 

 

パイロット

かつて航空計器を手掛けていたゼニスを物語るシリーズ。
その高精度と耐久性から、2つの大戦を通じてアメリカやドイツ、イギリスから絶大な信頼を勝ち得た。

【ゼニス基礎知識】 エル・プリメロとは

 

 

エル・プリメロとは、1969年に誕生した世界初の「一体型自動巻きクロノグラフ・ムーブメント」。当時の量産型では唯一の毎秒10秒振動ハイビートであり、時計界に大きな衝撃を与え、華々しいデビューを果たした。その完成度の高さは時計関係者に絶賛され、ロレックスのデイトナに採用されたほど。

 

一般的なブランドはアイコニックなモデル(腕時計)が存在するが、ことゼニスにおいてはエル・プリメロがアイコンとなっている。

※詳しくは4章のエル・プリメロについてで解説。

 

 

2.ゼニスの人気シリーズランキング・定番腕時計

※アンケート投票数順に並んでいます。

 

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●総投票数:446票
1 (262票)
クロノマスター

クロノマスターについて

10振動のエル・プリメロを積む、ゼニスの定番クロノグラフシリーズ。
2016年にデファイとパイロットを除くクロノグラフが、この「クロノマスター」として統合された。

クロノマスターの定番モデル4選

クロノマスター エル・プリメロ オープン

ムーブチラ見せの定番といえばこのモデル!
クロノマスター エル・プリメロ オープン
文字盤のオープンデザインから心臓部である調速機のハイビートの動きが見える人気モデル。さらにインダイヤルのブルーとグレーの配色が初代モデルと同じ、という点も魅力のひとつ。
■自動巻き。径42mm。SSケース。ラバープロテクト付きアリゲーターストラップ。92万5000円


クロノマスター エル・プリメロ

エル・プリメロの基本型
クロノマスター エル・プリメロ
42㎜と38㎜で選べるスタンダードなエル・プリメロ搭載機
横並びの3つ目インダイアルを有するクロノマスターの基本型。サイズは初代モデルと同様の38㎜と現代的な42㎜の2種類あり、それぞれエル・プリメロを象徴する3色インダイアルを軸にしたカラバリが用意される。
■自動巻き。径38mm or 42mm。SS+18KRGケース。アリゲーター+ラバーストラップ。10気圧防水。95万400円


クロノマスター エル・プリメロ グランドデイト フルオープン

ダイヤルを造形的にする2つのメカニズム
クロノマスター エル・プリメロ グランドデイト フルオープン
シリーズ最大の45mm径。その名の通り、2つのディスクで表示するグランドデイトを備え、さらに6時位置にはムーンフェイズと昼夜表示を同軸に置くムーン&産フェイズを搭載し、それぞれの機構までもあらわにした。
■自動巻き。径45mm。SSケース。アリゲーターストラップ。114万円


クロノマスター エル・プリメロ スケルトン

個性も素材も異なるスケルトンクロノ
クロノマスター エル・プリメロ スケルトン
現代エル・プリメロの基本形となるCal.400Bをベースに、文字盤をスケルトン化。数字を打ち抜いたカレンダーディスクは、6時位置にきた数字のみを赤く示すことで、存在感を際立たせた。
■自動巻き。径45mm。セラミックケース。カーボン+ラバーストラップ。5気圧防水。136万800円

クロノマスターの年齢層アンケート

クロノマスター が似合う年齢層(年代)といえば?

  • 30代  (39%, 63 票)
  • 40代  (32%, 51 票)
  • 50代・60代  (18%, 29 票)
  • 20代  (11%, 17 票)

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2 (75票)
デファイ

デファイについて

150年以上、真摯に時計と向きあう名門マニュファクチュール……。そんなマジメな印象が強いゼニスのイメージを覆す革新的な新シリーズ(2017年誕生)。100分の1秒クロノグラフを搭載した大胆なオープンダイヤルが特徴。

デファイの定番モデル3選

デファイ エル・プリメロ 21

初代を思わせるクラシカルな意匠
デファイ エル・プリメロ 21
高耐磁性ほか信頼性も格段にアップした新型ムーブ「Cal.9004」を搭載。1969年の初代エルプリメロのクラシカルなケースフォルムをモチーフにしながらも、最新ムーブが眺められるスケルトン文字盤とのバランスがとてもカッコいい。
■自動巻き。径44mm。チタンケース。アリゲーターコーティングラバーストラップ。115万円。


デファイ ゼロG

重力を味方に高精度を得る
デファイ ゼロG
3軸のジンバルに組み込んだ調速脱進機は、重力に従い360度回転し、テンプを水平に保つ。ジンバルを重いプラチナ製として回転効率を高め、小型化した。
■手巻き。径44mm。チタンケース&ブレスレット。10気圧防水。1080万円。


デファイ エル・プリメロ 21

1/100秒クロノをラグジュアリーに
デファイ エル・プリメロ 21
シリーズ初のゴールド仕様。フルオープンダイヤルは、30秒積算計リング以外はブラックとし、重厚なスポーティ感を与えた。
■自動巻き。径44mm。18KRGケース。アリゲーターストラップ+ラバーストラップ。300万円

デファイの年齢層アンケート

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  • 40代  (38%, 23 票)
  • 30代  (32%, 19 票)
  • 50代・60代  (17%, 10 票)
  • 20代  (13%, 8 票)

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3 (61票)
エリート

エリートについて

エル・プリメロに並ぶゼニスの主要ムーブメント「エリート」を搭載したシンプルなドレスウォッチシリーズ。ケースは薄く(9mm台~11mm台)スーツスタイルにも自然と馴染む。

エリートの定番モデル3選

エリート クラシック

エリート クラシック
ケース径39mmのウルトラスリムケースに、サンレイ装飾を施したシルバーの文字盤は落ち着いた中にも力強さと美しさが。自社ムーブ「エリート679」搭載でこの価格というのも人気の理由のひとつ。
■自動巻き。径39mm。SSケース。アリゲーターストラップ。54万円。


エリート クラシック(ローズゴールド)

エリート クラシック(ローズゴールド)
サイズ感や、パラジウムにスモーク仕上げした文字盤がいい雰囲気。
■自動巻き。径39mm。18KRGケース。アリゲーターストラップ。5気圧防水。110万円。


エリート クロノグラフ クラシック

エリート クロノグラフ クラシック
クラシックな2カウンターのエル・プリメロ搭載機に落ち着いたスモーキー・ブラックが登場。スーツに似合うクロノになった。
■自動巻き。径42mm。SSケース。アリゲーターストラップ。5気圧防水。82万円。

エリートの年齢層アンケート

エリート が似合う年齢層(年代)といえば?

  • 40代  (33%, 15 票)
  • 50代・60代  (33%, 15 票)
  • 30代  (20%, 9 票)
  • 20代  (14%, 6 票)

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4 (48票)
パイロット

パイロットについて

1900年代初頭から、航空計器の製造メーカーとして、各国の航空会社に納品をしていたゼニスの前身を物語るシリーズ。
そのスタイルは、ルイ・ブレリオが活躍した1910~20年代当時のモデルをモチーフとし、航空機の黎明期をともに拓いたメゾンの歴史を今に伝える。

パイロットの定番モデル3選

パイロット クロノメトロTIPO CP-2 フライバック

1960年代のミリタリーウォッチを忠実に再現
パイロット クロノメトロTIPO CP-2 フライバック
カイレリ モデルのSS仕様は、オイルが焼き付いたようなエイジング加工に。ベルトに用いたダークなグリーンは、今季のトレンドになる気配。
■自動巻き。径43mm。SSケース。ヌバックストラップ。10気圧防水。91万円。


パイロット タイプ20 クロノグラフ トンアップ

エル・プリメロ搭載のパイロットウオッチ
パイロット タイプ20 クロノグラフ トンアップ
日付のない2カウンター仕様のエル・プリメロ搭載。グローブ着用でも操作しやすい大型設計のリューズやプッシュボタン、視認性の高いインデックスと針の組み合わせなどの造形もユニーク。
■自動巻き。径45mm。SSケース。ヌバックストラップ。10気圧防水。87万4800円


パイロット タイプ20 エクストラスペシャル

ヴィンテージ航空時計の意匠
パイロット タイプ20 エクストラスペシャル
1939年以降、多くのフランス航空機に搭載されていた「ゼニス タイプ20」の意匠を受け継ぐ一本。針形状やインデックス書体に当時と同様のものを採用し、裏蓋にはかつてのゼニスの航空計器を刻印。
■自動巻き。径45mm。SSケース。ヌバックストラップ。10気圧防水。81万円。

パイロットの年齢層アンケート

パイロット が似合う年齢層(年代)といえば?

  • 30代  (43%, 24 票)
  • 20代  (23%, 13 票)
  • 40代  (21%, 12 票)
  • 50代・60代  (13%, 7 票)

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3.ゼニスの歴史

 

エル・プリメロを開発し、不動の名声を手にする。

ゼニスはムーブメントから自社一貫生産できる世界でも数少ない時計メーカー。マニュファクチュールと呼ばれるこの方法が、同社の時計を高品質に維持する大きな理由のひとつでもある。一貫生産システムを築いたのは、創業者のジョルジュ・フアーブル=ジャコ。1865年、22歳の若さでスイスのル・ロックルに時計工房を設立した彼は、時計が一般の人々に普及することを予想し、いち早くこのシステムを作り上げた。

 

これで大成功を収めたゼニスは世界各国に販路を広げ、数々のコンテストでも優秀な成績を残す。また、世界大戦時はミリタリーウオッチの供給も行った。ドイツやイギリスなどの軍隊に採用された事実は、ゼニスの優秀さを端的に物語っている。

 

そして1969年、自動巻きクロノグラフ・ムーブの最高峰ともいわれる「エル・プリメロ」を発表。一般的にテンプの振動数が高いほど、高精度に有利といわれるが、エル・プリメロは毎時3万6000振動という驚異的な高振動。耐久性の問題も7年あまりの歳月をかけてクリアした。エスペラント語で“ナンバー1”を意味するこのエル・プリメロで、不動の名声を手にしたのである。

 

1970年代半ば、クオーツの台頭を受けて生産中止となったものの、1980年代には機械式時計が見直され、当時を知る技術者の手により復活。以後、ゼニスはエル・プリメロを軸に次々と傑作を発表していく。

 

 

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“原点回帰”に成功し、ネオクラシック路線へ。

そんなゼニスが大きく変貌したのは20世紀に入ってからのこと。LVMHグループへの移行に合わせて、ラインナップの高級化が図られた。エル・プリメロ自体にもバリエーシヨンが増え、仕上げのレベルも向上。

とくに2003年発表の「クロノマスター オープン」が大ヒットを記録。その勢いのままに、ラグジュアリーな新作を次々と発表していった。

 

2010年、CEOが変わった新生ゼニスはラインナップを半分以下に整理し、“原点回帰”を打ち出した。往年のゼニスらしいシンプルなモデルが増え、エル・プリメロとエリート・ムーブともに、価格面も魅力の「キャプテン」を追加。ピュアな「エリート ウルトラシン」や「エル・プリメロ 36000VpH」も大好評で、ここ数年の停滞期から一気にV字回復を果たしている。

 

2017年には、モジュール構造によって毎時3万6000振動×毎時36万振動という2つの心臓部を持たせた、1/100秒計測を可能にしたCal.9004が完成。このムーブメントを搭載する「デファイ エル・プリメロ21」という製品名が示す通り、ゼニスは、これからまさしく21世紀の“No.1”時計ブランドとなるべく、新たなステージへと突入している。

ゼニスの年表

 

1865 ─ ジョルジュ・ファーブル=ジャコが、スイスのル・ロックルに前身会社マニュファクチュール・ド・モントル社を設立。現在も同地で操業中
1896 ─ スイス国内の博覧会で金賞を受賞
1899 ─ 最初のクロノグラフポケットウオッチを発表
1900 ─ フランス・パリ万国博覧会で同社の懐中時計が金賞を受賞
1910~60 ─ 数々の高性能ムーブメントを開発し、約50年の間に2333もの賞を受賞
1911 ─ 天空の頂点を意味する「ゼニス」を社名に採用
1925 ─ 社員数が1000人となる。時計産業発祥の地、ル・ロックルと隣接するラ・ショー・ド・フォンで「2000本の黄金の手を持つマニュファクチュール」と称される
1948 ─ 後に235の賞を獲得することになる、腕時計用のキャリパー135を発表
1960 ─ キャリバー5011Kで同種のキャリバーにおける精度記録を樹立
1969 ─ 初の一体型自動巻きクロノグラフであり、毎時3万6000振動を誇る高精度ムーブメント「エル・プリメロ」が誕生
1975 ─ ゼニスを所有していた会社が生産をクオーツのみに限定すると決定
1984 ─ 時計職人シャルル・ベルモが独自に保管していた機械式時計の設計図、部品、工具などがゼニスに返却され、エル・プリメロの製作も再開される
1994 ─ ブランド初のCAD設計による薄型の自動巻きムーブメント「エリート」を発表
2000 ─ LVMHグループの傘下に入る
2003 ─ エル・プリメロの脱進機を見ることができる「オープン」コンセトを考案
2009 ─ 現在も本拠を構える創業地のル・ロックルが、その建築群と産業都市計画を評価されてユネスコ世界遺産に登録される
2012 ─ パイロットシリーズから3型の新作を発表
2015 ─ 創業150周年の節目に新型ムーブメント「エル・プリメロ405」「エリート6150」を発表
2017 ─ エル・プリメロに毎時36万振動のクロノグラフモジュールを追加し、1/100秒計測を可能にした「デファイエル・プリメロ21」を発表。日差±0.3秒を実現する革新的なオシレーターを組み込んだ「デファイラボ」のコンセプトを発表

 

 

4.エル・プリメロについて

 

華々しいデビューからまさかの消滅…、そして奇跡の復活まで

エル・プリメロの誕生

誕生は1969年。その開発は、1965年に迎えた創業100周年の記念プロジェクトだった。その年、いったんの完成を見たものの、ル・ロックルの名門マニュファクチュールは、完成度に満足できず、さらに4年の開発期間を費やしたのだという。こうして1969年、世界初の一体型自動巻きクロノグラフにして、当時量産型では唯一の毎秒の振動のハイビートであったエル・プリメロは、時計界に大きな衝撃を与え、華々しいデビューを果たした。その名称は、エスペラント語で「No.1」を意味する。

 

 

クォーツショックのあおりで消滅

エル・プリメロは、機械式クロノグラフの新時代を拓いた。しかしその時代の扉は、程なく閉ざされる。奇しくもエル・プリメロのデビューの年、日本の時計メーカーがクォーツ式腕時計の量産に成功。そしてクォーツは、瞬く間に時計界を席巻した。今でいうクォーツショックである。

 

いくつもの時計メーカーやサプライヤーが倒産し、多くの時計師は職を失い、技術も散逸した。ゼニスも例外ではない。経営危機に陥り、1971年に米国企業に売却された。そして1975年、前述のように当時の経営者はクォーツへの移行を決断し、機械式に関わるすべての工具や金型、図面の売却を厳命したのだ。その中には、むろんエル・プリメロも含まれている。

 

 

※晩年のシャルル・ベルモ。エル・プリメロの開発から関わり、その製造に当たる第4工房の責任者でもあった。

 

エル・プリメロの生みの親、「シャルル・ベルモ」が復活のきっかけを作った

1978年、ゼニスはスイスの企業に再び売却された。新たな経営陣は。1980年代に入ると、機械式時計再評価の機運を感じ取った。しかし機械式ムーブメントの製造を再開したくても、技術も道具も、図面もない。新たに開発するには、時間も経費もかかる半ばあきらめかけていた経営陣の前に、一人の救世主が現れた。かつてエル・プリメロの開発にも関わり、その製造責任者を務めていたシャルル・ベルモである。彼は経営陣にエル・プリメロの製造に必要なすべてが、屋根裏部屋にあると明かしたのだ。

 

前経営陣が機械式に関するすべての売却を命じた際、多くの同僚も賛同したという。「これからは、クォーツの時代」だと。しかしエル・プリメロをこよなく愛したシャルル・ベルモは、機械式再興の時が来るのを信じて疑わなかった。そして減産で使われなくなっていた社屋のひとつの屋根裏部屋に、エル・プリメロの製造に必要なすべてを隠したのである。

 

中でも重要だったのが、設計図と金型だ。今のようなコンピューターも高性能な工作機械もなかった当時、詳細に各部品の形状やサイズ、製造方法を手描きした設図は、ムーブメント製作になくてはならないものだった。そして200以上にも及ぶエル・プリメロのパーツの多くは、金型なくしては作れない。ベルモが屋根裏部屋に運び込んだ金型は、全147個、総重量は1トン以上にも及ぶ。

 

 

※右:屋根裏部屋に隠されていた設計図や金型の一部。左:エル・プリメロ誕生当時の手書きの設計図の一つ。

 

不死鳥のごとく蘇ったエル・プリメロ

かくして1984年、固く閉ざされていた屋根裏部屋の扉が再び開かれた。そこにあった金型をオーバーホールし、あるいは設計図を基に新たに作り直し、異業種への転職を余儀なくされていたかつての職人らを再雇用して、エル・プリメロは不死鳥のごとく蘇ったのである。

 

機械式の技術の多くが失われていた当時、クロノグラフは希少な存在。他社にいくつも供給されたエル・プリメロは、機械式時再興に大きく貢献するとともに、一体型自動巻きクロノグラフの時代を再び拓いた。

 

エル・プリメロを支える加工技術

※左上はドライ切削を可能とした最新鋭のマシン。左下は1960年代製のヴィンテージな工作機械で、現役で稼働中。右は最新の金型。

 

超精密加工技術が支えるエル・プリメロの革新性

エル・プリメロはハイビートな上にパワフルで、多様な機構の追加が可能。複雑化もでき、10振動クロノ唯一ののトゥールビヨン、さらにはミニッツリピーターまでゼニスは開発してみせた。位置を常に保つ独自のジャイロスコープモジュールを積む「クリストファーコ ロンブス」も、クロノはないものの、10振動である。

 

これらエル・プリメロの進化を叶えるのが、高精度な加工技術。他社がコンピューター制御の工作機械に切り換えているのに、今も金型を使っているのは、加工精度が格段に高いからだという。その誤差は、2ミクロン以下。いかに高性能な工作機械でも及ばぬ高精度。

 

同時に設備投資を惜しまず、複数台を連結し、様々な切削加工を連続して行える最新鋭のCNC工作機を導入。オイルを用いないエコなドライ切削で、精密に地板やブリッジを削っている。複雑な形状も切削できる超高性能な5軸のCNC工作機は、前述のクリストファーコロンブスに用いるジンバルを作するため、フル稼働している。

 

これら新旧の加工技術を使い分け、エル・プリメロを筆頭とする自社ムーブメントを構成する部品は、超高精度に加工され、優れた性能を発揮する。

 

エル・プリメロの今後

※最新のエル・プリメロを搭載した「デファイ」シリーズ

 

新生エル・プリメロでさらなる躍進を誓う

そんなゼニスの高い技術力と革新性を象徴するのが、2017年の新作「デファイ」が積む、最新のエル・プリメロ9004である。時刻表示はの10振動の、クロノグラフは100振動の、それぞれ専用ムーブメントで駆動する設計。

 

超ハイビートのクロノ用テンプには、例のないカーボンナノチューブ製ひげゼンマイを採用。この超ハイビートに耐えるパーツは、より高精度な加工が要求されることは、容易に想像がつくだろう。1秒間で1周するクロノ秒針の動きは、精密な加工の業で実にスムーズである。超高速回転を止める際の衝撃も、精巧な品がしっかりと受け止め、耐久性にも優れる。

 

 

 

5.ゼニスの6つの傑作品

ゼニスはクロノグラフの傑作エル・プリメロで名を馳せるが、150年の間にそれ以外にも数々の名作を生み出してきた。その技術と偉業は、現在のモデルにも受け継がれている。

1.1880年製・1905年製「ポケットウォッチ」

 

時計製作と経営に才気あふれる創業者

上記はいずれも創業者ジョルジュ・ファーブルー=ジャコ製作による懐中時計。当時はまだZENITHの名はなく、ダイヤルには彼の名が刻まれている。時計製作技術に加え、経営者としても一流の手腕を振るった彼は、いち早くロシア市場に進出。左の時計がロシア向けに製作された1880年製の懐中時計。

 

ダイヤルにはキリル文字でジョルジュ・ファーブルー=ジャコと記されている。右は14金のケースに自社製Cal.19-278を収めた1905年製モデル。ダイヤルには通常の時インデックスの内側に赤く小さな文字で24時間インデックスも刻む。開閉式の裏蓋は、放射状のギョーシェで彩られている。

 

2.1920年代製「アラーム付き ブラックメタル」

※ガンディー愛用の懐中時計。

 

海外市場にいち早く進出したマニュファクチュール

1865年、スイスのル・ロックルに自らの工房を開いたゼニス創業者のジョルジュ・ファーブル=ジャコは、若干必歳の青年だった。9歳から時計製作を学んだ彼は、優れた時計師であると同時に経営者としての才能にも恵まれていた。当時、ジュウ渓谷のムーブメントのパーツの多くは、雪の深い冬場に農家が製作する、いわば副業的産物だった。それを彼は、1つの工房内に集約させる現代のマニュファクチュールの概念をいち早くル・ロックルに取り入れた。さらに最新の工作機械も他社に先駆け、導入。創業から10年後の1875年には、ル・ロックル最大のファクトリーに成長させたのだ。

 

海外市場にも、早くから目を向けていた。1870年代には、帝国ロシアへと進出。1880年にジョルジュ・ファーブル=ジャコの時計は、すっかりロシアで定着していたという。1911年、ゼニスの名を正式な社名として採用。スイス時計界の頂点を指す同社は、ロシア以外にも広く海外に進出を果たし、多様な機構を持つムーブメントの開発に尽力した。

 

上の懐中時計は、ダイヤルにゼニスの名を刻む1920年代製モデル。ケースはブラックメタル製でアラーム機構を装備する。これと同じ時計を、インド独立の父、モハンダス・カラムチャンド・ガンディーが所有していた。ゼニスは1914年からインドへの輸出を始めていたのだ。後にインド首相となる友人インディラ・ネルーから贈られたもので、ガンディが所有した数少ない外国品の1つ。アラームによって、彼は祈りの時間を知ったのだという。

 

今のゼニスにあるブラックケースやアラームウォッチのこれが原点。技術と伝統は、連綿と受け継がれている。

 

3.1948年製「高精度3針ムーブメント」

※精度記録を塗り替えた傑作 Cal.135

 

精度コンテスト記録を樹立。高精度3針はゼニスの伝統

1900年にパリ万博で金賞を受賞して以来、ゼニスは数々の博覧会や精度コンテストで入賞の栄誉に輝いてきた。中でも1948年に開発されたキャリバー135は、1950年から54年まで5年連続してヌーシャテル天文台のクロノメーター・コンテストで最高精度記録を次々と塗り替えた傑作。それ以外にも、実に計235もの賞を獲得した伝説のムーブメントだ。機構はシンプルな2針+スモールセコンド。コンテスト用だけでなく、市販モデルにも搭載され、1962年まで計1万1000個が作られた。

 

高精度な3針自社製ムーブメントは、今のゼニスにも健在。1994年に開発されたエリート680系である。自動巻きながら、厚さ3.47ミリと薄型の設計で、今年はさらにツインバレル化により100時間駆動へ進化。ゼニスは3針でも、技術力を発揮する。

 

4.1970年製「パイロットウォッチ」

※1970年、イタリア空軍に納品された公式クロノグラフ。

 

本格的な航空機の時代をともに拓いたメゾンの伝統

本格的な空の時代が訪れようとしていた1900年代初頭、ゼニスはそのサポート役であった。1909年、英仏海峡横断を成し遂げた飛行家ルイ・ブレリオの腕にも、1931年に世界最高速度を樹立したレオン・モナールの腕にも、ゼニスの時計があった。また1910~50年代、ゼニスは航空計器の製造メーカーとして、各国の航空会社に納品してもいる。

 

過酷な状況下、高精度と耐久性とが要求されるミリタリーウォッチでも、ゼニスは2つの大戦を通じ、アメリカやドイツ、イギリスから絶大な信頼を勝ち得ていた。大戦後も上にあるように、イタリア空軍にパイロットクロノを納め、空との親和を保持している。

 

今のゼニスにとっても、パイロットウォッチは主要コレクション。そのスタイルは、ルイ・ブレリオが活躍した1910~20年代当時のモデルをモチーフとし、航空機の黎明期をともに拓いたメゾンの歴史を今に伝える。

 

5.1971年製「エル・プリメロ」

※エル・プリメロ第一世代、Cal.3019PHCを搭載したゴールドケースモデル。

 

メゾンを象徴する傑作は今も進化を続ける

1969年に誕生したエル・プリメロは、毎時3万6000ビートを刻む世界初の一体型自動巻きクロノグラフ・ムーブメントの傑作。しかし実は短命に終わる運命だった。クォーツショックの最中の1975年、当時アメリカ資本になっていたゼニスの経営者は、クォーツを中心にすると決定したのだ。その時、エル・プリメロの設計図や金型、工真などを屋根裏屋に隠したのが、技術者のシャルル・ベルモ。彼のおかげで1980年代半ばからの機械式時計再興時、エル・プリメロは再び日の目を見ることになった。

 

上のモデルは、第一世代のエル・プリメロ最後期モデル。ゴールドのケースに特徴的なラグが目を引く。当時からエル・プリメロ搭載機は、バリエーションが豊かだった。今のゼニスのエル・プリメロも、ラインナップが豊富だ。150周年の2015年は限定モデルが例年より多く、その中にはシャルル・ベルモの名を冠したものもある。

 

さらに2014年から順次、ガンギ車とアンクルをシリコン製のものへと置き替えるなど、ゼニスを象徴するエル・プリメロは、今も進化を続けている。

 

6.1984年製「ムーンフェイズ」

※懐中時計時代に生まれたオールドムーブメントを復刻させる、1984年のプロジェクトからの1作。

 

ゼニスとも縁が深い宇宙の神秘を表す機構

1984年は、ゼニスにとって第2の創業年とも言える。機械式時計が再び脚光を浴びはじめたこの年、シャルル・ベルモが保管していたエル・プリメロの図面や金型、工具などがゼニスへと返却され、再生産が始まったのだ。

 

同じ年、ゼニスは機械式時計再興に向け、20世紀初頭にその原型が生まれ、1961~62年にわずか6000個だけ作られたキャリバー68をベースとした25個の懐中時計を製作した。上のモデルは、その中の1つ。6時位置にはムーンフェイズを配している。

 

天頂を意味するブランド名を持ち、星をロゴに掲げるゼニスにとって、ムーンフェイズは縁ある機構だと言えよう。現在のコレクションにも搭載モデルがあり、宇宙の神秘をダイヤルに宿す。

 

 

6.アフターサービス情報

 

ゼニスの保証期間・オーバーホール料金など、アフターサービス情報。

メーカー保証期間
2年。ウェブ登録をすると1年延長で3年保証を提供。

 

オーバーホールの推奨期間
使用頻度にもよるが、3~5年毎を推奨。

 

オーバーホールの基本料金
エリート(スタンダード):4万3000円~。エリート(コンプリケーション):5万1000円~。エル・プリメロ(スタンダード):5万5000円~。エル・プリメロ(コンプリケーション):6万5000円~。

 

オーバーホールに外装の仕上げは含まれるか?
有料オプション。

 

オーバーホール後の保証期間
1年。

 

オーバーホールの納期
1~1.5ヵ月

 

古い時計の修理は、何年前のモデルまで可能か?
現状では基本的にすべて受け付けているが、内装・外装部品の在庫が無く、修理不可となる場合もある。

※アフターサービスの問い合わせ先:LVMHウォッチ・ジュエリー ジャパン ゼニス(03-5524-6420)

 

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