教えてくれたのは

 

ルカ・トゥリン(Luca Turin)

1953年レバノン・ベイルート生まれ。生物物理学と生理学の学者。MITで人工嗅覚の開発も。著書『世界香水ガイド』(原書房)、『Perfumes : TheGuide』(2018年)。

香水を知る最初の一歩として、まずは“Perfume Writing(香水批評)”の権威であるルカ・トゥリンに、最も素晴らしいと思われる香水を10本を選んでもらいました。

 

日本で未発売のものも多いですが、指標となる最良のものを知ることほど学びになることはありません。

 

 

ゲランの《ミツコ》は香水の本質そのものである。

一般的にはレディースとされているが、私自身よくつけるのがこの《ミツコ》。ゲランの3代目調香師ジャック・ゲランは偉大な発想を完璧な形へと作り上げてしまう、いわばピカソのような人物だ。

 

ベルガモット、ラブダナム樹脂、オークモスの3要素をベースにしたコティの《シプレ》がセンセーションを巻き起こした2年後の1919年に、その進化形として誕生した。以来、100年近く変遷を重ねてきたが、現在のバージョンは過去最高の完成度を誇っている。香りの素晴らしさのみならず、香水とはかくあるべき、というすべてを体現する名香だ。

 

 

新進気鋭のアーティザナル、オーフォリーの《ミヤコ》。

名前こそ《ミツコ》に似ているものの、歴史も作り手もベクトルが真反対。マレーシアに住む、IT畑出身とプロダクトデザイナーの兄弟が3年前に発表した香水だ。一見、理系オタクにしか見えない彼らが、小さな工房で独学によって作り出したこの《ミヤコ》は、私にとてつもない衝撃を与えた。

 

日本のキンモクセイをベースに、アプリコットやユズ、ジャスミンティーやレザーのノートが強烈に個性的な、複雑な香りが実に見事な香水だ。私が10年ぶりに香水の本を出すことにしたのも、実はこの《ミヤコ》に感激したのが契機となっている。

 

 

カルティエの《XI:ルール ペルデュ》。

3番目は「ネオ・クラシカル」な香りと私が呼ぶ品。若手女性調香師マチルド・ローランによる《ルール ペルデュ》は天然としか思えないナチュラルな香りだが、私の化学者仲間によれば、化学の技術が結集した逸品なのだとか。香りの広がりも素晴らしい。

 

我が家のリビングは広くて2階分の高さがあるのだがシュッと一吹きするだけで、たちまち家じゅうがこの香りで「輝く」のだ。私の第一印象は「これはすごい!」。そして10分後、「一体どうやってこんな懐かしい香りを生み出せるのか?」と知りたくてたまらなくなった。これぞ傑作だ。

 

 

マロングラッセの甘い香り、アイルランド発《カスターニャ》。

アイルランドのアーティザナル調香師デルフィン・ティエリーが開発したのは、かつてない「甘さ」だ。香りの世界において、甘さは長く深い歴史を持つ。これまで香水の甘味はバニラ、そしてラクトンと呼ばれる成分が必須で、近年はいわゆる「グルマン」、食欲をそそる甘い香り成分も増えた。

 

ティエリーが作り出した《カスターニャ》は、フランスのお菓子マロングラッセ、正確にはマロングラッセに用いるマロンクリームの芳香が素晴らしい。だが、実際の香りそのものの再現ではない。微妙なノートを用いた、滑らかで甘い香りの誕生だ。

 

 

独立系パフューマーがここまで!《ル・クリ・ドゥ・ラ・ルミエール》。

モロッコ出身、イタリア系のマルク=アントワーヌがフランスで作る《ル・クリ・ドゥ・ラ・ルミエール》はバラ、スミレ、アイリスのフローラル系。トップノートの美しさは、最高級の原材料に由来する。私はオーディオマニアでもあるが、初めて静電型スピーカーで音楽体験した時の感動に通じるものがある。

 

香水作りのベテランで、学位も取得している化学者のアントワーヌは仏ヴェルサイユの調香師学校ISIPCAで教鞭も執る。彼の個人ブランド、パルファン・ド・エンパイアは近年クオリティが素晴らしく、業界内でもトップレベルを誇っている。

 

 

メンズフレグランスの金字塔、ゲランの《アビルージュ》。

メンズといえば、まずは《アビルージュ》。フレグランス史上初の、オリエンタル系メンズフレグランスだ。1960年代から今に続く「古典」で、いわば香りの参考書として持っておきたい一本。我々プロが言うところの“ストレンジ”かつ、均整のとれた香りを両立させている。

 

オレンジフラワーとオポポナックスのアコードが柔らかく、かつ荒いのが特長だ。香りが鼻に届いた瞬間に、強烈に香りを感じ取るタイプのフレグランスがあるが、これはその代表格。「イニシャル入りのスリッパを履いた格式高い老紳士」っぽさもあり、それも魅力だよ。

 

 

一度嗅いだら忘れられない、《オ・クール・デュデゼール》。

ウッディでオリエンタル、バルサミックな香りが強烈に印象的な「砂漠の花」を作ったのは、スイスのチューリッヒに住む元化学者のアンディタワー。独学で香水作りを身につけて12年目を迎える、アーティザナル系パフューマーで、自作のフレグランスを「香りの彫刻」と呼ぶ。

 

彼を一躍有名にしたフレグランスがあって、そこから甘さを一切取り除いたのがこの《オ・クール・デュ・デゼール》。会社所属のパフューマーと違い、個人で研究・製造しているため一般的な原材料しか使えないにもかかわらず、これまでにない香りを生み出したのがすごい。

 

 

ゲランの孫娘が生み出した《ニューヨーク・アンテンス》。

独立系パフューマーとして活躍する、ゲラン家の孫娘パトリシア・ドゥ・ニコライ。彼女の《ニューヨーク・アンテンス》には、私にとってのメンズフレグランスの理想がすべて詰まっている。フランスのバタービスケットやバニラ、古い書物の香りに、オークモスなどのビターなエッジが加わる。

 

心地よく穏やかで温かい。つけると、まるで自分の周囲3cmがオレンジ色に輝いているかのように、香りのオーラでくるまれる。香りが他人の邪魔をしないタイプの香水ではダントツだ。これなら会食やコンサートにも、安心してつけていくことができる。

 

 

《コリガン》は18世紀から続くブランドの挑戦。

1950~60年代にかけて一世を風靡したパリのルバン。近年、アートディレクションやパッケージも刷新して大々的なカムバックを果たし、パフュームも新機軸を打ち出した。中でもこのスイート系フレグランス《コリガン》は人をこよなく惹きつける。

 

カラメルの香りなのだが、実際のカラメルの再現ではなく、非常に完成度の高いメンズフレグランスへと到達させているのには驚いた。伝説的な名パフューマー、トマス・フォンテーヌの才覚と、従来の常識を打ち破ろうとするルバンの切磋琢磨が見事に集約された、稀に見る逸品である。

 

 

言わずと知れたシャネルのクラシック、《シコモア》。

そして《シコモア》だ。美の蓄積を最高の品質で現代に継承し続ける、シャネルらしさ溢れる名作である。シャネル社の前専属調香師であるジャック・ポルジによって2008年に生み出された《シコモア》が非常に素晴らしい。

 

ドライで力強いウッディなノートに、扱いの難しいベチバーを見事に落ち着かせ、フレッシュで健康的かつ気品ある香りとなっている。“ストレンジ”だが、とてもナチュラル。控えめでありながら、香りは独自の広がりを持ち、力強さが続く。《シコモア》はまさに「美しいフレグランス」そのものと言って過言ではない。

 


この記事を書いたのは

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メンズファッションブランドナビ編集部

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